大人と子供の骨格は異なる。
「正しく」バレエテクニックを身につけるのであれば
大人と子供は同一の方法ではない。
本ページに記載の(図)に関しては、大雑把にイメージするものとして書いてある。
厳密な詳細については、専門のイラストなどをご覧いただきたい。
ここではあくまで、大まかなイメージ図として掲載していることをご了承いただく。
序論:「正しい」指導は、同一ではない。
大人の骨格と子供の骨格では、相違点が存在する。
故に、同一のバレエテクニック・指導では、目的が達成されないという事実(ファクト)があり、同一の指導は「正しいバレエ指導」として間違っている。
本稿では、肩・腕に着眼し、相違点の1つを述べる。
本論1:基礎知識
肩関節は、上腕骨と肩甲骨、鎖骨から形成される。
(図)
上腕骨は「二の腕の骨」と言えば、どこの骨のことか、すぐにご理解いただけるであろう。
ここでは「関節窩」(かんせつか)という言葉を覚えて頂きたい。
関節窩とは、肩甲骨の最も外側にあたる部分で、受け皿のごとく窪んだ形状をしている。
ちょうど、この「窪んだ受け皿(ソケット)=関節窩」に、上腕骨頭(上腕骨の最も上部、端の部分)が “はまっている”。
(図)
本項では「関節窩」と「肩甲骨」が頻繁に出現するため、ぜひ、この言葉を覚えてほしい。
本論2:大人と子供の相違
大人と子供の肩及び上腕に関しての相違を比較するとき、「上腕骨の捻れ」についても述べたいところではあるが、かなり難解になる故に、肩甲骨や上腕に関する記述にとどめることを、予め述べておく。
また、できるだけ理解しやすいよう、敢えて概論に留め、可能な限り「一般的な言葉」で記すことを、ご了承いただきたい。
要点を述べるとこうだ。
子供の場合、大人と比べて「肩甲骨は外側に」位置している。
(つまり、両肩甲骨は離れている)
従って、関節窩は大人よりも前方を向いているため、腕は動作でいうところの「前」の状態になっている。
大人の場合、「基本的立位肢位」もしくは「解剖学的立位肢位」で考えるならば、肩甲骨は子供と比べ、内側に寄り、関節窩は外側を向いている。
つまり、動作でいうところの「横」の状態である。
最もこれは、菱形筋の発達が見込まれている状態で、基本的立位肢位または解剖学的立位肢位が取れていることが前提となる。
菱形筋がどの段階で、どのように発達していくのか。
これは何も「特別なこと」ではない。
(図)
小学校や中学校の体育の授業で「胸を張って、ビシッと立つ」、朝礼で「良い姿勢で立つ」(バレエ的良い姿勢ではなく、一般的な意味での)などを経験していくうちに、発達していくものと考えられる。
一見、バレエの立ち方とは縁遠く感じられるだろうが、回り回って、しっかりと役立つ良い例である。
最近は、どうやら我々の世代(どのあたりの年代とは、あえて言わないが)よりも、この点、経験することが少ないらしい。
子供達にとっては、優しく、多少だらっとした姿勢不良でも許される環境は「ラッキー」な出来事と捉えるだろうが、長い目で見ると「アンラッキーな出来事」である。
その点、バレエ教室で、レッスンの待ち時間も「良い姿勢」を求められる、発表会の練習で「良い姿勢で長い時間経っていなければならない環境」は、本人にとっては「アンラッキー」でも、長い目で見れば「ラッキー」な環境だ。
「お行儀」に口うるさいバレエ教師に巡り合うことは、子供達にとっては恵まれたことと言って良い。
お行儀はお行儀に留まらず、体の発達にも影響が出る。
(大人にとっても、お行儀よくレッスンすることは、体の再教育になることを知っておきたい)
話を戻そう。
大人にとっての問題点は、2つ。
1つは、自身が大人であるはずなのに、子供と同じ姿勢になってしまっていること。
ただし、先の話のような「いかにも、昔ながらの体育の先生」に教育を受けてきた、家庭で姿勢をよくすることを口うるさく言われてきた世代にとっては、ここはさほど大きな問題ではない。
育ってきた環境にもよるが、多かれ少なかれ、ここに関しては経験済みだ。
恐らく、大きな影響をもたらしているのは、腕を前にしている動作で1日の大半が占められていることである。
成長するに従って、体育の授業は減り、大人になると、ついにその時間はなくなってしまう。
追い討ちをかけるかのように、腕は常に体の前にくる。
こうして本稿を書く私の腕も、体の前に位置している。
パソコン、スマホ、ペンで書く、車の運転をする、全て腕は体の「前」に位置する。
包丁を使う、食器を洗う、掃除機をかける。
歯を磨く時や、顔を洗う時でさえ、腕は体の「前」に位置する。
本来であれば、腕が体の前に位置した動作の後、ニュートラルポジション、つまり、関節窩が外を向いた状態に戻すべき(つまり、肩甲骨の位置を戻す)だが、そうも言ってられない。
あまりにも、腕を前にするシーンが、次から次へと押し寄せるためだ。
いちいち位置を戻していたら、仕事の効率が悪いってものである。
そうするうちに、ニュートラルとは名ばかりの、本来ニュートラルではない位置が「ニュートラル」になってしまっているのである。
ガイドラインにすべきでない項目が、ガイドラインとして認識してしまっているということだ。
大人の場合、共通認識が持ちにくい原因の1つでもある。
各々が思う「ニュートラル」がニュートラルでなく、各々が思う「ニュートラル」がガイドラインになっておらず、バラバラなため「基準がない」状態である。
この場合どうするべきかは、結論としては複雑ではない。
まず、単純に姿勢を取り戻すことが必要で、その上で、関節窩が外を向く状態に肩甲骨ポジションを調整し、その状態で腕を動かせるように、体を教育することである。
現代人には、現代人の教育が必要ということだ。
本稿で述べるべきは、ここではない。
姿勢が正しく取れるのであれば、大人と子供の骨格構造的相違は、はっきりと見てとれる。
もう一度、整理しよう。
子供は、肩甲骨が外側で、関節窩が前向き、腕は前。
大人は、肩甲骨が内側で、関節窩が外向き、腕は横。
お分かりだろうか。
ここで気づいて欲しいのは、肩甲骨がどう、関節窩がどうこうよりも、これだけ「相違がある」という一点だ。
骨格に相違がある以上、同じ方法・同じ指導では、「正しいバレエ」ということは出来ない。
言い方を変えよう。
骨格に相違があるのに、同じ方法・同じ指導は、「正しいバレエ」という観点において、「間違っている」。
大人は、子供と同じ方法では、バレエの形式を満たすことが出来ない。
これは、逃げでもなんでもなく、当たり前のことである。
具体性を持っていうならば、腕のポジションをとる時、大人のバレエと子供のバレエでは、同じ姿勢・同じ腕の位置であるわけがない。
基礎を大事にレッスンをするのであれば、大人と子供の指導内容が違っていないと「おかしい」のである。
ちなみに、脊柱の形状や体に閉める頭の大きさの比率なども、大人と子供の「相違」の1つであるが、これは、またの機会に述べるとする。
結論:CKCが鍵を握る
大人のバレエの場合、現代生活において、子供に近い「肩甲骨位置・関節窩の向き」になってしまっている状態を、大人本来の位置・向きにする必要がある。
(肩甲骨や関節窩が子供に近いと言っても、脊柱その他は大人の構造になっているため、子供に近い=子供と同じようにやれば良い、と短絡的に考えられないことに着眼したい)
その上で、アンバー(ブラバ・プレパラシオン)やアンナヴァン(第1ポジション)といった “体の前に腕を位置する” ポジションを作る必要がある。
まずは「四つ這い姿勢」、つまり「CKC」(注1)末端を固定させた状態で、関節窩が外を向けるように肩甲骨の位置を調整すること。
肩甲骨や鎖骨の位置を取った上で、それらを固定し、上腕及び前腕を動かす練習が効果的である。
バレエでは、腕は常に「OKC」にある。
この状態での改善は、困難を要する。
仮に、改善されたとしても、厳密さにはか欠けることを知っておきたい。
レッスンでポジションをなおせたとしても、意識しないと、また元に戻ってしまうということは、既に経験済みであると思う。
無意識でも理想の位置を取れるようにするには、四つ這い姿勢を厳密にとることを通るのが「近道」である。
四つ這いを正しく取ることが出来れば、胴体は、ほぼ床と平行になることが出来る。
(図)
頭部から骨盤にかけて、「下り坂」になっているようであれば、肩甲骨のポジションが出来ていないことを指す。
この四つ這い姿勢での肩甲骨・鎖骨の位置が、そのまま各バレエポジションの原型になっていると言って良い。
(もちろん、ほんの少しの調整は必要だが)
そして、この状態が指導言語でいうところの
・体を張る
・引っ張り合う
・ワキを使う
・背中を広く
・腕を長く
・肩幅を広く
・鎖骨を横に広げて
などの意味を成す。
大人のバレエと子供のバレエは、「正しく」行うのであれば、同一ではない。
ここを決して、勘違いしてはならない。
注1:OKC及びCKCに関しては、こちらの記事をご覧いただきたい。
→https://juncotomono.info/okcckc/