自分の体を思い通りの動かすことは
非常に難しい。
言うことを聞いてくれないのならば
「しつけ」を必要とする。
序論:バレエの「第一印象」
バレエでは、ADLにはない脚の動きを多く求められる為、レッスンでは、脚に対しての練習に多くの時間が割かれる。
しかし、実際の人の視点でいうと、脚よりも先に、上半身に目が行くことを忘れてはならない。
つまり、上半身が「第一印象」となる。
本論1:原因とエチュード
大人からバレエをはじめた場合、腕のポジションをその人なりに(それが、正しかろうが、間違っていようが)とっていても、動作において、腕の動かし方がわからないというケースが目立つ。
ポジションからポジションへの「移行」、頭や肩といったパーツとの「独立性と関連」に対してのアプローチが皆無だと、腕自体が
・どこにいるべきか
・どこを通るべきか
行方不明になりがちである。
例えば、アームスを動かす際、
・頭(顔)をつけると肩が崩れる
・胸部を動かすと、頭が不随意的に(無意識に)動いてしまう
このような現象が起きてしまうと、腕だけで解決出来る話ではなくなる。
「腕の動かし方が分からないから、ポールドブラを練習しよう」これでは、不十分で解決の糸口を見つけることさえできない。
こうした、「腕の動き+他パーツとの独立・関連性」は、子供の頃からバレエをやっている人と、大人からはじめた人の違いとして現れやすい。
重心の移動についても、同様のことが言える。
バレエにおいては、重心を出来るだけ動かさないことが求められる時と、その逆で、積極的に動かすことを求められる時がある。
後者に代表されるのが「アラベスク」である。
(アラベスクの基本 第二章 「アラベスクのための」体作り 参照)
大人の場合、無意識に重心を移動させることを「怖い」と感じるケースが多い。
こうした、適切な重心移動が行われない場合、当然、プレースメントはとることが出来ず、腕は「行方不明」となる。
重心を移動させない時も同様である。
重心を移動すべきでないのに、グラグラと、フワフワとブレているようでは、同じ現象が起こる。
バレエでは、こうした様々な項目に対し、きちんと対処が出来る練習法が存在する。
素晴らしいことだ。
それが、第1ポールドブラ〜第6ポールドブラに至る、一連のシステマチックなコンテンツである。
「第1ポールドブラ〜第6ポールドブラ」を練習するメリットをあげてみよう。
A:シンプルな動きから、複合性の高い動きへと発展し(応用ではないことに注目)、システムとして学ぶことが出来る。
B:肩のディアゴナル、頭のディアゴナルを集中的に行うことで、胴体と頭部の独立を促すことが可能である。
C:体幹と腕の独立性から、連動まで学ぶことが可能である。
D:「○○しながら、△△をする」という、2つ以上の動作の組み合わせを、様々なパターンで行うことにより、複数部位の協調性を育てる。
E:ローテーション(回旋)や、上下位置のコントロール、上体ごと動かすなど、バレエで求められる動かし方が、ステップを伴わない状態で、多数含まれている。
F:重心を移動させないもの、重心を移動させるものの両方を練習することが出来る。
数を限定しても、これだけの項目が含まれる。
目的を明確にして行えば、非常に優れた「エチュード」であると言える。
本論2:6つの有効なシステム
6つのポールドブラシステムが、具体的に、どのようなシーンに役立つのかを分析すると、もっと分かりやすく感じるであろう。
根本的・本質的なことに言及したいところではあるが、専門性が高く、難解であると思われることから、実際のバレエ動作で例をあげるとする。
「回転」ピルエットなどで
・スポットがつけられない
・つけると回りにくい
・頭が倒れてしまう
こうした悩みを抱えているのならば、第1ポールドブラで、しっかりと「肩と頭の独立」を練習してみよう。
正面ではなく、「ディアゴナル」を用いていることが、ポイントであり「力のベクトル」を身につけることも可能である。
動きが急に早くなったり、遅くなってしまったり、あるいは、動きのタイミングを掴みにくいというケース、
つまり「ペーシング」に関わる悩みを抱えているのであれば、第2ポールドブラを練習しよう。
このポールドブラには「等速直線運動」が、「象徴的に」含まれている。
あまり早くせず、敢えて、遅めのテンポで行うと、さらに良い。
ペーシングに関わる問題は、バレエそのものだけでなく、トレーニングの効果の是非を左右することもある。
バレエ以外への波及も大きいため「何をやっても効果が出ない」にならないよう、適切に対処すべきである。
体が「変形してはならないシーンで、変形しやすい」、アラベスクでの重心・重さの移動が苦手、回転が怖いといったケースは、弟3ポールドブラで、必要な要素を揃えていこう。
単なる「ストレッチ」ではなく、「第3ポールドブラ」としての型を厳守することが重要である。
ここではじめて、意義深いものへと変化する。
シンプルな動き、かつ、胴体を変形せず、大きく動かすものは、バレエにおいては意外と少ない。
また、「下に・上に」と、頭の位置を変えることで、定着した位置以外での「恐怖感」を取り除くための手助けとなるだろう。
5番ポジションの骨盤プレースメントが取れない、背骨の可動が低い、胴体を使いこなすことが苦手な場合は、第4ポールドブラを。
個人的に、「第4ポールドブラ」は、大人にとって「最大の難関」と分析する。
筋力や可動域で、どうこうできる類のものではなく、そこには間違いなく「センス」という芸術性が求められるからである。
体の動かし方・使い方、位置関係、空間把握…「総合力」が必要だ。
ここに、バレエの本質が現れていると思うが、専門的になるのでやめておこう。
ちなみに、第4ポールドブラの腕を動かす順序は、そのまま、ピケアラベスクなどをする際の「腕のタイミング・動かす順序」へと、発展する。
首が固まりやすい・過剰に力が入る、姿勢が崩れやすい、「集める」ことが苦手ならば、第5ポールドブラを。
第5ポールドブラに含まれる、反った状態で頭を動かすことができていなければ、バレエでの頭の動かし方が、全て違っている可能性がある。
バレエでは、胸骨を床に対して、「まっすぐ」にしてはならない。
(胸骨については、「トルソー」を参照)
幾分、倒れている状態で、頭を自由に動かせるようにしておかねばならないし、結果として、指示された頭の動きができるようにせねばならない。
倒れている状態で頭が動けないと、意味がない。
これは、声を大にして言っておく。
背中が丸まっていたり、肩が丸まっている、胸骨が床に対して真っ直ぐな状態で、頭を動かせたとしても「バレエ」ではない。
この点において、第5ポールドブラはよく出来ているのだ。
流れるようなポールドブラの後半、反ったまま頭を動かす動作が登場する。
また、第5ポールドブラは、それまで動いていたパーツが「一斉に」動きを揃えるシーンがあるため、「集める」感覚がない人にとっても、良い「手助け」となってくれるだろう。
第6ポールドブラの例に関しては、敢えて、言及しない。
第6ポールドブラの特質を得る以前に、課題となることが多い故である。
結論:ただ動くだけでは、不十分
第1ポールドブラ〜第6ポールドブラには、少なくとも、上体に関して(頭部、腕、胸郭、胴体)のほとんどの要素が含まれている。
パターンとして練習することは、腕の動かし方だけでなく、上半身や平衡感覚、質量変化にまで波及し、非常に有効である。
しかし、動きをなぞるだけでは不十分である。
腕を動かす際、何がどうなっているべきか。
頭部、肩を含め、適切に練習することが必要である。
また、動きの原理を知っていると、そうしたことへの理解の手助けになることであろう
行方不明を解決するにすべきは、「行方不明をどうにかしようとすること」ではない。
「関連したパーツの所在地を明確にし、独立させること」である。
◎アラベスクについて
アラベスクの基本~バレエの形式を満たす“十ヶ条”と体作り~[バレエ教本]
◎第1ポールドブラ〜第6ポールドブラ
https://juncotomono.info/program/20200902-release-bar-portdebras/