今日は、荷重について整理したいと思います。
荷重=重さがかかること(重心とは別)
まずは、本題に入る前に、知っておいて欲しいことを一つご紹介します。
※注釈は、本文下に記載されています。
体の方程式
バレエでも荷重位置については、いろんなことが言われてはいますが、荷重位置さえ変えたら、全てが上手くいくわけではありません。
ただし、他のことと同様に”連鎖的に良くなる・悪くなる”ことは、十分あります。
連鎖的に良くなる場合、そこには「方程式」が存在します。
方程式(体の連鎖システム、運動連鎖)を持っている人は、荷重位置を適切にすることで、体全体が良いアライメントになることでしょう。
一方で、方程式を持っていない人が荷重位置を変えても、それ「だけ」に止まるか、変えようとしても「変えることができない」状態に陥るでしょう。
つまり、この場合は、望むべき変化が見込めないということです。
そうなると、体のシステム・運動連鎖を再構築する必要があります。
ここが少しずつでも変わってくると、いろんなことが繋がってきて、ダダダッと雪崩の如く良くなることもあります。
1回、2回で変わることではありませんが、最も近道です。
以上を前提にして、本題に入りましょう。
3つの荷重位置
バレエでいう荷重位置は、先生によって多少の違いはありますが、大凡3つのグループに分類することができます。
①爪先周辺
②土踏まず周辺
③かかと周辺
①と②…足部を前後に分けたときの、おおよそ前側。(前足部)
③…足部を前後に分けたときの、おおよそ後側。(後足部)
伝統的には爪先周辺ですが、それが難しい場合や状況によっては土踏まず周辺。
いずれかであれば、ショパール関節の可動なども見込むことができます。(参考はページ下に明記)
なぜかというと、バーレッスンでショパール関節を可動することが難しくても、センターレッスンできちんとエポールマンをとっていれば、可動してくれる可能性があるからです。注1
まさに、連鎖で獲得出来ることの1つです。
「バレエとしては」荷重は土踏まずよりも先、つまり、前足部になります。
とはいえ、バレエレッスンでも「かかと荷重」にしなければならないケースがあります。
それは「体を保つ筋が不足している+一定程度まで開けない・開かない場合」です。注2
この状態で前足部に荷重してしまうと、体全体のアライメントが崩れてしまいます。
そこで、かかと荷重が登場します。
これは、目指すべき状態ではありませんが、応急処置・対処療法になります。
風邪を例に考えてみましょう。
あなたは、風邪を引いてしまいました。
咳が酷いので、咳止めを服用しました。
発熱しているので、解熱剤を服用しました。
咳や発熱は治りましたが、これは、直接的に風邪をなおしたわけではなく、症状軽減したに過ぎません。
根本的に風邪を治しているわけではありませんが、体力を取り戻すなど、間接的には風邪を治すことに関わっています。
この咳止めや解熱剤に当たるのが、かかと荷重です。
かかと荷重でレッスンに取り組む期間中、その間に、姿勢を保つ筋を育てたり、一定程度、脚を開けるようにしておくことで、バレエの入り口へと近づけることができます。
(ここは、バレエレッスン以外のトレーニングが必要です。レッスンですることではありません)
現実には、風邪を直接的に治す薬というのはありませんが、「風邪自体を治す薬」に当たるのが、前足部荷重です。
ここからが、バレエ対応のスタートです。
大人の場合、こうした「バレエ対応ではないこと」がレッスンの中で、頻繁に起こっています。
そして、こんなふうに思い込んでいる人も多いのではないでしょうか。
・バレエだから、○○なはずだ!
・あの本には、あの先生はこういっていたのに、言ってることが違うじゃないか!
・バレエなんだから、これはないはずだ!
ロシアのバレエ学校のように、フランスのバレエ学校のように
・そもそも入学試験で、基準を満たしている人のみ採用する
・体の条件も、容姿の条件も良い
・カリキュラムに従った練習時間を確保し、実施している
・本人の意思に関係なく、必要なものは行う
当てはまるのであれば、それで良いかもしれません。
日本にいる時点で、これらの条件を満たすことはできません。
そのことを忘れないでください。
指導が「適切なのであれば」、指示を受け入れる方がいいでしょう。注3
ここまで、バレエは前足部荷重だけど、かかと荷重をしなければならないケースがあるということについては、ご理解いただけたかと思います。
教師の真の仕事
話を先に進めましょう。
かかと荷重した方が良い人に対して、教師は、前足部に荷重するように言いました。
この教師は、教師として力量不足でしょうか?
SNSなどでも、ここに対しての不満をおっしゃっている方をお見かけすることがあります。
一度、お聞きします。
この先生は、力量不足でしょうか?
そうではありません、むしろバレエ教師としては、正しいことを言っています。
なぜでしょう?
考えてみてください。
バレエ教師は「バレエを指導することが仕事」です。
リハビリの先生ではありません。
バレエとしては「前足部荷重」がスタートです。
かかと荷重というのは、本来のバレエ指導ではありません。
例え、かかと荷重を必要とする人に対して前足部荷重を指示したとしても、教師として何も間違っていません。
力量不足でもありません。
ここで必要なのは「教師の指導変更」ではなく、習う側の「バレエを習うというスタートを取れる体を作ること」です。
具体的には、ADLレベルの対策、筋出力、正しい動かし方などです。
現代人は何もしなければ、これらが満たされることはありません。
これらは、バレエとは別です。
ADLレベルを上げることやリハビリは、バレエ教師の仕事ではないことを、再確認しましょう。
(自分で率先して行動を起こさなければ、先生とあなたのズレが縮まることはないということも。)
先生の指導力・力量が影響することは、多々あります。
これは、紛れもない事実です。
一方で、今回の事例に関しては、指導力・力量の問題ではありません。
バレエをするにあたって、体の準備をしてるかどうかの問題。
それは、レッスン内ですることではなく、自ら率先して手に入れる必要があるということ。
指導者も、習う方も、バレエレッスンとは「バレエを習う場である」という、当たり前のことを忘れないようにしたいですね!
注釈
注1
エポールマンを正しく→ただ、斜めを向けばいい訳ではない。
骨盤の向きや姿勢を理解できているかが、道を分ける。
注2
一定程度開く→どの程度かの目安は、下記を参照。
大人のバレエ なぜ上達しない「第二章 2,実例バレエポジション」
注3
大人のバレエ なぜ上達しない「コラム『負の学習・マイナスの学習 恐れないで!』」参照
※参考資料
電子書籍『大人のバレエ なぜ上達しない』