バレリーナと肩こり

「バレリーナと肩こり」タイトル

あなたは、自分を「無視」していないだろうか。
そうだとしたら、確実に「サイン」を見逃している。

 

本ページに記載の(図)に関しては、大雑把にイメージするものとして書いてある。
厳密な詳細については、専門のイラストなどをご覧いただきたい。
ここではあくまで、大まかなイメージ図として掲載していることをご了承いただく。

 

 

序論:レッスンにおいて

肩こりの原因として、「僧帽筋の継続的な緊張状態」が、よく取り上げられる。

バレエにおいても例外ではない。

バレエ特有のポジションや、求められるフォルムを獲得しようとして、僧帽筋を過度に緊張させ、かつ、継続的なものとなってしまっていることが多い。

“体が大きい=比例して腕が長い” 大人にとっては、長い時間、同じ腕のポジションを取り続けることで、肩こりの原因を作ってしまいがちである。

 

本稿では、バレエレッスンにおいての適切な「解釈」について述べる。

 

 

本論1 :僧帽筋とは?

僧帽筋は、「肩こりの筋肉」などというくらい、聞き慣れた名称であると思われる。

肩だけでなく、広範囲に位置していることは、頭の片隅に入れておくと良いだろう。

 

僧帽筋と言っても、これだけ範囲が広いのである。

本項では、取り立てて述べることはしないが、僧帽筋自体を「使わない」訳では、決してない。

適切な活動は必要だが、これだけ広いと、「どの時に、どこを、どんな目的で」活動させるのかで、効果やフォルムが変わってくる。

 

僧帽筋に限ったことではなく、全ての筋において、同じことが言える。

○○筋が使えればいい、強ければいい、という話ではないことを、理解してもらいたい。

 

 

 

僧帽筋の「縦」は、頭の下から第12胸椎にまで、繋がっている。

背中の上から半分くらいまで、存在するのだ。

 

「横」は、「肩峰」(腕を除く、肩の端)にまで、及んでいる。

 

ここで注目すべきは、「腕には、付着していない」ことである。

つまり、いわゆる「肩関節」の可動をもって、腕を動かすことができているのであれば、少なくとも本来、バレエの腕の動きが原因の「僧帽筋の過緊張」は、ないと言って良い。

 

ただし、肩峰が必要以上に下がる(床に近づく)と、僧帽筋は引っ張られ、過緊張を強いられる。

そして、腕を上げる時、胴体と腕の独立性が失われていると、過緊張を強いられる。

肩こりの原因が、完成してしまう。

 

これは、”筋の積極的活動” ではない。

崖から落ちかけている人を、腕を伸ばし、必死に助けようとしている状態である。

 

 

 

最初の図を、もう一度、出してみよう。

 

 

僧帽筋を、上段・中段・下段と分けて見てほしい。

筋の走行が異なることに、お気づきだろうか。

 

 

 

①上段は、下行部といって、カタカナの「ハ」の字のような、走行になっている。

②中段は、水平部。その名の通り、「横に・水平に」走行している。

③下段は、上行部で、①とは逆の走行になっている。

 

特に、上段の下行部は、走行からして「肩を下げる」ことで、引っ張られ、過緊張を引き起こしやすいことが、分かるだろう。

ADLでは、「肩をすくめる・丸める」という姿勢の悪さが、肩こりに影響を及ぼすことが多いのは、ご存知の通りだが、バレエにおいては、逆の現象によって、肩こりの原因を作ってしまうことがある。

 

ここを整理しておくと、糸口が見えてくるだろう。

 

 

 

本論2 :バレエレッスンでの原因

ここまで、僧帽筋と肩こりの発生について述べた。

ここでは、バレエレッスンにおいて、どのような行為が、こうしたことに結びついているのかを解説する。

 

 

問題① 腕の位置が低い。

特に、アラセゴンやアンバーにおいて、腕の位置が低いと、僧帽筋をひっぱり、常に緊張状態に陥りやすくなる。

「腕の位置を低く、バレエの型の範囲で、構造的にもよろしい」、これは、至難の技である。

3つ揃うには、趣味の範疇を超えて、幼少期からの訓練を要するレベルである。

習う側が選択できない状況なのであれば、指導者は適切に対応して欲しい。

これは、アラベスクにおいても現れており、大人は特に、注意すべき点である。(注2)

 

 

問題② 腕を動かすと「胴体」も変形する。

本来、バレエでは、胴体と腕は「切り離して」動かす。

「腕は背中から生えているかのように」という喩えは、あくまで、「胴体と腕が切り離された状態で、肋骨や胸郭、胸骨を動かすことで、腕も動く」ことを指しているのであって、腕と背中が癒着していることではない。(注1)

腕を上げる、アンオーにするときに、肩と腕が一緒に上がっていないだろうか?

鎖骨の両端が、上がっていないだろうか。

心当たりがあったら、ここの項目に当てはまるのかもしれない。

 

次に、問題①と②への、目安や対処について述べる。

 

 

 

本論3:代償と試行

レッスンの時、こんなことをしていないだろうか。

 

首を長くしたい。

○…首自体を長くしようとする、頭の位置を高くする。

×…肩を下げることで(代償)、首を長くしようとする。

 

 

腕を長くしたい。

○…肩甲骨や肩、胸骨の位置を変えずに、肘や手首、指先などを胴体から離す。

×…肩甲骨や肩、胸骨の位置をずらすことで(代償)、腕を長くしようとする。(注1)

 

 

また、頭が前に突きでたり、垂れていると、僧帽筋を過剰に引っ張ることとなる。

首の後が「立つ」位置に、頭を配置することは、初期段階において学ぶべきことである。

アンディオールやターンアウト、引き上げや、つま先の伸ばし方よりも、「ずっとずっと前に」やっておくべきことである。

 

 

では、簡単な確認をしてみよう。

図のように、肘を曲げ、肩に指先をおく。
(海賊で出てくるような、腕のポジションを作る)

 

 

肘を横に広げ、肘を上げていく。
(くれぐれも、肘が、斜前方にならないように注意すること)

肩に窪みができるので、確認しよう。

 

この「肩の窪み」を保ったまま、それぞれのバレエポジションをとってみよう。

正しくできているならば、筋によって腕を支えることが、出来ている。

 

低い腕の位置では、「肩の窪み」は簡単に消失してしまい、腕をぶら下げてしまう。
(崖から落ちかけている人、救出している人を思い出してみるといい)

低い腕の位置というのは、非常に難しいことが分かる。

だからこそ、迷ったら「高い方」を選択する方が良い。

バレエのフォルムが作れる上に、体の機能としても、喜ばしいのである。

 

 

 

結論:自分を「無視」しない

代償の例にあるように、何かを改善しよう・よくしようとする時の「解釈」が間違ったものだと、思わぬ問題を引き起こす。

バレエの原理、身体構造に沿って動いていれば、バレエレッスンが肩こりを悪化させたり、原因になることはない。

 

もし、レッスンが肩こりの原因になったり、悪化を促してしまうようなら、「何かを見直すべき」というサインである。

そのサインを見逃さず、無かったことにせず、向き合うことは、大きな怪我・事故・慢性的な痛みの発生を防ぎ、正しいテクニックの習得へと導いてくれる。

 

自己否定するのではなく、ぜひ、前向きに捉えてほしい。

 

 

注1:こちらの記事の「アロンジェ」についてを参照のこと。
https://juncotomono.info/armmove/

注2:アラベスクの基本~バレエの形式を満たす“十ヶ条”と体作り~[バレエ教本] 第六ヶ条を参照のこと。
アラベスクテキスト表紙 アラベスクの基本~バレエの形式を満たす“十ヶ条”と体作り~[バレエ教本]