「引き上げ」を正確に理解していないことは多い。
個人的には「引き上げ」という言葉が適切かどうかは、疑問の余地がある。
どうやら昔は「引き上げ」という言葉はなかったようだ。
もっと、具体性を持って提案していたのだと思われる。
とはいえ、私がバレエを始めた頃にはすでに「引き上げ」という言葉が存在していたし、複合的な意味を持ち合わせているが故に、クラス進行上、便利な言葉であることは確かだ。
しかも、現代のバレエにおいて頻繁に使われる言葉ではあるので、いいかどうかは別として、知っておく必要はある。
そうしないと、対応ができないからだ。
今日は、「引き上げとは一体なんぞや」というところをお話しするので、一緒に整理しよう。
”1秒引き上げ” で、正体を明かす!
よくばりな指導言語たち
アンディオールやターンアウトについても同様のことが言えるが、「引き上げ」という言葉は、「指導言語」であることを強く認知しよう!
解剖学用語でも、物理用語でもない。
[指導言語=教師が指導する際に用いられる言葉] である。
本題に入ろう。
引き上げとは、どこをどうすることを言っているのか。
▶︎お腹を引き上げる
▶︎背中を引き上げる
など、いろいろな使い方が出てくる。
そう、指導言語とは “1つの場所に対しての1つのすべきこと” だけを指しているのではない。
複合性を持った言葉なのである。
指導言語の例を出してみよう。
アンディオールが「フトモモを外に開くこと(股関節外旋)」だけを指しているならば、そういえば済むだけだが、実際には「フトモモを外に開くこと」だけを指しているのではない。
複数にわたる項目がある。
その項目を、クラス中に全部言っていると、スムーズなレッスンになりにくい。
デイリーレッスンは、しっかり体を動かすことも大事な項目の1つ。
「アンディオールして!」が伝われば、1つの言葉でいくつものことを言い表すことができる。
そういう意味で、非常に便利なのである。
こうしたことが「引き上げ」にも言えるのだ。
各パーツのポジション、筋の働き方や方向、関節の状態、見た目、いろんな項目が含まれる。
「引き上げて!」と言われたら、こうした項目を一辺に確認する必要がある。
指導側としては便利ではあるが、習う側としては「引き上げ」に含まれる項目を知らなければ、確認のしようがない。
ここが、指導言語のデメリットである。
引き上げをしているつもりでも指摘を受けるようならば、こうした複数のことをチェックし、試してみるといいかもしれない。
引き上げの原理
引き上げというのは、「引き上げを必要とする状況」でないと発動しない。
余裕で片脚で立てますよーというときは、微塵も顔を出してくれない。
これが、あなたが引き上げに悩む、大きな原因の1つだ。
[やってみよう]
両足で立つ。
頭を含めた上体が全く動かないようにして、片脚になってみよう。
[解説]
今、あなたが頭や上体の位置を変えずに片脚になれたとしたら、体が「キュッ」と緊張したはずだ。
試しに、上体を思いっきり支持脚の方に傾けて片脚になってみるといい。
さっきの緊張はなく、一気に「ダラッ」と体が落ちるのがわかるだろう。
これが「引き上げの原理」である。
つまり、こういうことだ。
なるべく支持脚に移動しないという条件下で
↓
それでも片脚にならなきゃならない!
↓
体が緊張し、「引き上がる」
支持脚に思いっきり「寄りかかった上体」で、お腹をどうしようと、背中をどうしようと、それは引き上げとはいわない。
力を入れただけ、だ。
そうなると、「しっかり立って!しっかり乗って!」というのがどういうことか混乱するかもしれない。
これは、支持脚側に「頭や上体を移動させる、乗せる」ということではなく、「なるべく移動しない状態でしっかり筋を「張って」引き伸ばしなさい」ということ。
要は
▶︎筋の長さが足りていませんよ
▶︎体重の重さで立ってしまっていますよ
ということ。
筋の張りというのは、目に見えるものである。
頭や上体が支持脚に積極的に移動している状況では、張ることができない。
まずは、位置を取ることが必要だ。
まとめ
引き上げの原理をまとめよう。
[脳内バレエ]
両足に立ったときの、頭と上体の位置を変えずに片脚になる。
もちろん、実際には「全く動かさずに片脚」というのは、かなり厳しい。
いくらかは、支持側に移動せざるを得ないだろうが、「最小限度」にとどめることが大切だ。
素晴らしいダンサーになればなるほど、この「最小限度」が狭くなり、「わずかに」というくらいしか移動しなくなっていく。
もっとも動作となると、彼らは「わずか」どころか、むしろ支持脚からは遠ざかっていくのである!
これが、バレエの引き上げの原理である。
これは、レッスン以外でも練習することができる。
信号待ちでも、休憩中でも、両足から片脚になってみるといい。
バランスを取る必要はないし、止まれなくてもいい。
頭や上体の位置を変えずに、1秒だけ片脚になってみることを習慣づけることが効果的だ。
今日、1回だけ試してみよう!
2回できたら、合格点。