向きがどれほどまでに重要か。
それは、
出来るようになった時
はじめて理解できる。
序論:”生きた”体が踊るということ
私達は生きている。
生きた体でバレエを踊っている。
当たり前のように思えるが、バレエの知識を得ようとする時、忘れてしまっているケースが実に多い。
解剖学とは、既に亡くなっている人間の体から、仕組みを学ぶ学問である。
ある程度のことは、分かり、学ぶことが出来るだろう。
もう一度言う。
私達は生きている。
生きた体でバレエを踊っている。
”生きている”ということ、”生きている体が動くこと”が前提ならば、亡くなった人間から学ぶ学問だけでは、不十分である。
生きた人間が対象であることが前提ならば、そこには、物理的発想が必須である。
体の仕組みと物理的発想。
両立してこそ、実用可能なものとなる。
本稿では、バレエを踊る為、バレエ上達のために知って欲しい “ベクトル” について説明する。
本論:力の”方向”が現れる形を左右する|大人のバレエ活用法
本論1:量を表す
序論では、これから難しい話に入るように感じたかも知れない。
心配はご無用。
知っておいたら役立つこと、指導言語を理解するための手助けになることに限定する。
難しいこと、知らなくても問題ない事は、一切省くこととする。
最低限度の説明にとどめるので、頭を柔らかくして、お読み頂きたい。
・身長160センチ
・体重45キログラム
このように、1つの大きさだけで表せる「量」の事を『スカラー』と呼ぶ。
身近な天気予報を例にしてみよう。
明日の天気予報を見る時に、着眼してみると良いかも知れない。
・気温10度
台風情報などでよく出てくる
・気圧1000ヘクトパスカル
これも、1つの数の大きさだけで表せる量なので、スカラーである。
本論2:量と向きを表す
一方で、同じ天気予報でも、風を表すとなると、1つの数の大きさ”量”だけで表すのは不十分である。
例えば “秒速5メートル” という大きさの他に、「東向き」と言った ”向き” を表す必要がある。
大きさと向きの2つを揃えて、風を表すことが出来るのである。
東向きに、秒速5メートルの風がふいている。
つまり、大きさと向きを持つ 「”量”」となり、これを、『ベクトル』と呼ぶ。
スカラーとの違いは、向きが加わったことである。
ベクトルは、矢印で表すことが出来る。
本論3:矢印作り
ここまで分かったら、ぜひ、バレエ動作で矢印を作ってみて欲しい。
ゲームのようにやってみよう。
ベクトルは、筋活動の方向、力のかかり方などを表す時もあるが、それは非常に難解である。
専門家の力が必要である上、あなたにやって欲しいことは、これではない。
もっと実用的な方法で試してみよう。
ゲームのルールは単純だ。
①単純に、動きを生み出す方向を矢印で表してみる。
②筋や関節の解剖的知見によるものではなく、シンプルに、特定の部位が、どの方向に動くかを表す。
③矢印を意識して動いてみる。
ルティレで矢印を作ってみよう。
この動作で最もやりたい事は、何だろうか?
オーソドックスに矢印を作るなら、膝を体の外側・横方向に迫り出すことになるだろう。
従って、矢印は横になる。
矢印は、長くなるほど量が増える。
膝を横に迫り出す意識が弱いならば、長めの矢印をイメージしてみよう。
プリエも同様である。
両膝が外側へと働く。
両膝の矢印は、横方向へ、体の外側へと向かう。
「プリエは膝を曲げるものではなく、膝を外に広げるものだ!」
とおっしゃった教師がいたが、このことを言っているのである。
実際には、膝は「屈曲」と言って、確かに、曲げる動作なのだが、力のかけ方・向きで言うならば「外」や「横」ということになる。
バットマンタンジュ・アラセゴンは?
脚からつま先にかけて、三角形の斜辺同様の斜めの矢印を作る。
体の中心寄りから、体の外側に向かって矢印が付く。
結論:向きが持つ特性と脳からの伝達
何気ないように思える “ベクトル=矢印” であるが、自分で矢印を作れるようにしておくことで、力のかけ方が体で理解できるようになる。
例え、同じように筋収縮していたとしても、力の方向によって、現れる形は異なる。
筋が発達しているスポーツ選手が、皆、バレエが出来るか考えてみて欲しい。
筋が発達していたとしても、それぞれのスポーツやダンスにおいて、力のかけ方が違うからこそ、現れるものも異なるのである。
もう1つ。
矢印を作ることが何故、重要なのか。
脳から指令を送り、伝達することで、体に覚えさせる為である。
なんとなくやっていても、指令は降りてこない。
仮に、はっきりと「こうしよう」という意思がない状態で、何かしら出来たとしても、再現性に欠ける。
バレエの特性を述べておこう。
バレエでは必ず、体の中心に近いところから、遠いところに向かって、矢印が作られる。
逆はない。
それだけは、しっかりと覚えておいて欲しい。
重要なことだからである。
ベクトルの先には、カウンターやカウンターバランスが待っている。(注1)
ここまでくると、体を張る・反対方向に引っ張るなどの指導言語が理解できるようになる。
1つでもいい。
次のレッスンで矢印を作って、
実際にやってみよう。
注1:ベクトル・カウンターの取り方は、2021年2月プログラムで開催予定。