トルソースクエアに求められること。
ファクトとコモンセンスを整理する。
本ページに記載の(図)に関しては、大雑把にイメージするものとして書いてある。
厳密な詳細については、専門のイラストなどをご覧いただきたい。
ここではあくまで、大まかなイメージ図として掲載していることをご了承いただく。
序論:トルソースクエアとは、何か。
バレエレッスンで慣習的に使われている「トルソースクエア」とは何か。
胴体(トルソー)を変形させないことであって、床に対して、常に垂直を保つことではない。
本論1:基礎知識
まず、脊柱や胸郭について整理をしておきたい。
脊柱とは、背骨のことである。
脊柱は、椎骨と呼ばれる骨が繋がることで構成されており、1つ1つのブロックや積み木が積み重なっているとイメージすると分かりやすいだろう。
・頸椎7個
・胸椎12個
・腰椎5個
・仙骨
・尾骨
という構成で、頸椎は前弯、胸椎は後弯、そして、腰椎は前弯し、いわゆる「S字カーブ」を成している。
(図)
椎間は、椎骨と椎骨の間。
この間には「椎間板」があり、クッションのような役割、負担軽減の役割を果たしている。
次に、胸郭について。
胸部に位置する骨格のことで、肋骨と胸骨で形成されている。
かご状になっており、心臓や肺といった臓器を保護している。
(図)
本論2:トルソースクエアのファクト
バレエ動作においての「ファクト」を整理していく。
最も誤解が多いと思われるのが、アラセゴンに脚を上げるという動作についてである。
グランバットマンや高さのあるディベロッペをした時、実際にはトルソースクエアではない。
トルソー、つまり、胴体を動かさずに床に垂直にしたまま脚を上げることは、体の構造上、不可能である。
プレパラシオンと同じ脊柱ポジションで、脚を上げていくことは不可能であり、それは「可動域云々」とは関係ない。
脚に関しては、リカちゃん人形のように、脚だけクルクルと動くわけではないのだ。
実際には、脊柱は側屈するし、骨盤も傾く。
ただし、必要に応じて。
ここでいう「トルソースクエア 」で求められていることは何か。
答えは、胴体がまっすぐ、垂直に立っているように「見えること」である。
そして、それを可能としているのが「肩を水平に保つ」である。
骨盤や脊柱は変化するが、肩のラインは水平に保つ。
これが、現代のバレエテクニックのコモンセンスである。
しかし、厄介なことに「肩を水平に保つ」という言葉の解釈が、この問題を複雑にしている。
「肩を水平に」であって、「トルソーを常に垂直に保つ」ではないという点である。
プレパラシオンから変化しないのは、肩のラインであって、トルソー、胴体全体ではない。
このコモンセンスを実現するために登場するのが、胸郭の広がりである。
胸郭の広がりとは、肋骨と肋骨の間を広げることを指す。
肋間が固まっていると、胸郭および胸椎を動かすことが困難になるため、代償行為として、腰を必要以上に弯曲させたり(もちろん、必要な分はよい)、肩のラインが崩れるといった現象が起きる。
そして、それをなんとかしようとして「トルソースクエアにしなさい」というサジェスチョンが出現する。
ちなみに、大きな動作になればなるほど、この胸郭の広がりが必要とされる。
ところで。
バレエで必要としている分の胸郭の広がりは、日常生活を送るだけでは確保ができない。
ストレッチはどうか。
胸郭の広がり=肋骨と肋骨の間は非常に狭いため、ストレッチではダイレクトにアプローチができない。
第三者によるマッサージなどでも、同様である。
(オンラインテキスト リリースエクササイズ「リリースエクササイズの効果と効能~メディカル・理学療法士の視点から~を参照)
どうしたら良いのだろう。
悩むことはない、方法はある。
リリース(体の緩和)をし、本来持っているはずの柔軟性を取り戻すことが、最も近道で負担が少なくて済む。
(リリースに関しては、オンラインテキスト「リリースエクササイズ」に掲載の「胸郭リリース」からはじめて頂きたい)
たったの30秒をやるのか、やらないかは人それぞれだが、やって損をするということはない。
ここからは、脊柱に関しての言及をするが、ここでは「踊り手」として、知っておいて欲しいことだけ述べるとする。
大人のバレエにとって、難敵になるのは「腰の硬さ」である。
しかし、ここで早とちりしないでほしい。
“硬い=柔らかい方がいい” という発想だと、腰を反ることが必要という考えを持つ方がほとんどだとは思うが、実際には逆である。
つまり、ほとんどの人は「腰を反る」ではなく、丸める方向の可動が必要ということだ。
丸めるというと誤解が生じやすいとは思うが、言葉にするなら一番近い。
腰を反るようなことが習慣化されていくと、腰は硬くなり、ついには固まってしまう。
特にアラベスクは注意しなければならない。
大人のバレエに言及すると、アラベスクにおいて形式が取れない、高さがでないというケースで問題になるのは、椎間をギュッと押し潰すことで腰椎の可動を促してしまうケースである。
腰への負担も大きく、バレエの形式にはそぐわない。
なぜ、椎間を押し潰してしまうのだろうか。
実を言うと、この現象は、大人だろうが子供だろうが関係なく起きやすい、アラベスクの代表的な「代償行為」(トリックモーション)の1つである。
だから「大人だから」と言うわけではない。
年齢問わず起きているこの現象を紐解くには、まず「胸椎」について触れる必要がある。
胸椎。
バレエではここがよく動く。
アラセゴンにおいても、アラベスクにおいても。
バーレッスンでいわゆる「顔をつける」時でさえ、よく動くのである。
つまり、あらゆる動作で胸椎は重要な役割を果たす、いわば会社の「お偉いさん」である。
縁の下の力持ち、ではない。
かなり目立った役割を果たしている。
腰部の可動が十分ではなく、椎間をギュッと押し潰して固まっている状態では、胸椎は十分な働きをすることができない。
胸椎が動きにくくなると、また、腰椎での代償行為に拍車がかかる。
このローテーションを繰り返す。
原因はどちらなのか。
それは、”タマゴが先か、ニワトリが先か”といった具合である。
では、きっかけは何なのか。
指導によって引き起こされた可能性もあるだろう。
ただし、確率的には低いと思われる。
それよりも「アラベスクはこうするもの、バレエはこんな感じ」という誤ったイメージや頭のロック(注1)によって、習慣化され、このローテーションに陥っているケースの方が圧倒的であろう。
筆者は、むやみやたらにイメージを多用することの典型的な弊害であると考える。
いずれにせよ、このローテーションの切り崩しが必要であることには違いない。
どこから切り崩していくべきか。
ここに関しては「腰の硬さをとること」が優先されるべきは、明らかである。
腰椎が固まっている状態では、胸椎は動かない。
従って、腰椎の硬さをとり除くことで、胸椎が動ける状態にする必要があるのだ。
結論:トルソースクエアを保つために必要な機能
・胸郭の広がりを持つ。
リリースなどを行い、適切な柔軟性を獲得をする。
・腰部の硬さを軽減する。
日常生活やバレエレッスンによって固まった腰を緩和し、腰部が動ける状態を作る。
・胸椎の可動。
リリースからスタートし、適切な筋の収縮・弛緩によってアライメントを獲得する。
注1:頭のロック
思い込みなど、実際に起きている事実(ファクト)とは異なることを認識している状態。頭のロックがかかっている状態では、正しいことを「正しい」と認識することが難しい。
参考文献
オンラインテキスト「リリースエクササイズ」JBP
テキスト『リリースエクササイズ』