バレエ教師や生徒は、
バレエをすぐに、白黒つけたがる。
だが、バレエのほとんどは
[グレー]だ。
序論:教師の求めていることを通訳
力入れ過ぎ、力で動かないで、力を抜いて。
教師に言われた時、何をしたら良いのだろう。
もちろん、反射的に力を抜くだろう。
それ自体が間違っているわけではない。
その上で、言葉通りにする事を教師が望んでいるかと言えば、もっと意図を組む必要がある。
本稿では、レッスンで用いられる言葉について、通訳する。
本論:”力入れ過ぎ!”教師は何を求めているか
本論1:間違った概念
力入れ過ぎ、力で動かないで、力を抜いて。
こうした言葉を耳にすると、まるで、バレエは力を使わないように感じることだろう。
だが、人間が動く以上、力を使わないという事は、現実にはあり得ない。
バレエは、まるで力を使っていないかのように、力を感じさせない動きを求められるのであって、力を使わないわけではない。
力を感じさせない動きは、実際には、むしろ力を使っているのである。
力を使うか否か、という、白黒はっきりした事ではなく、力の量と内容の問題である。
ここを勘違いすると、バレエの取り組み自体を間違えてしまうことになる。
心当たりがある方は、本稿をしっかりと読んで、頭の中を整理しよう。
本論2:仕事に適した力の量
動きには、それぞれに適切な力の量がある。
適切な力の量というのは、動作を成立させ、最も美しく、最も効率よく動くことが出来る。
効率の悪い動きというのは、それだけで、力を感じさせてしまう。
動作に適した力の量というのは、動作自体やスピード、時間などによって変わる。
タンジュに適した力の量と、グランバットマンに適した力の量は異なる。
同じグランバットマンでも、比較的ゆっくり行う場合と、素早く何回も立て続けに行う場合では異なる。
動作に適した力の量よりも、多く力が加わっている場合、その分が力の使い過ぎという事になる。
つまり、余剰が出ているという事。
従って、余剰分をカットする必要があるので、教師の指示が出るという訳である。
逆に、適した力の量よりも、実際に発生する力の量が足りない場合も多い。
そうすると、動作自体が成立しなくなってしまう。
ジャンプなのに、跳んでない。
姿勢が悪い。
大人には、耳が痛い話かも知れないが、これがいわゆる、力が足りてない代表的な例である。
つまり、エネルギー量を足す必要があるという事。
ちなみに、スポーツ選手で考えると、筋トレの意義が分かり易い。
①100メートルを○秒で走りたい。
↓
②その為には、今のままだと力が足りない。
↓
③力をつける為に、筋の強化をしよう。
トレーニングを行うのは、①を成立させる為。
バレエを踊る為に必要な力が足りないから、トレーニングをするのであって、トレーニングをすれば、バレエが踊れるわけではない。
同じように、
今よりも、レベルアップする為に必要な力をつける為に、トレーニングをするのであって、トレーニングすればレベルアップするわけではない。
本論3:ほとんどの人がやってしまっていること
教師が、動きに対して余剰分の力が発生していると判断する時、力を抜いて!といった類のサジェスチョンが登場する。
すると、ほとんどの人は、それまで入っていた力を [0 ゼロ] にしてしまう。
この場合、教師が求めている事は、あくまで、余剰分を減らして欲しいという事であって、ゼロにして欲しいということではない。
白黒つけられずに、モヤモヤするかも知れないが、0か100ではない事を理解しよう。
結論:手軽な練習法
バレエは、筋を使う事自体が目的ではない。
あくまで、バレエをすることが目的である。
余剰分の力が発生している状態は、筋を活動させたという、ある種の満足感を得る事が出来るだろうが、バレエ動作としては、改善の余地がある。
一方で、力自体をゼロにしてしまう事は、大人にとって最も避けるべき行為である。
ゼロになるくらいなら、余剰分が発生している方が、まだいい。
対処法としては、力のボリュームを調整する事を覚える事である。
ダイヤル式のボリュームのように、少しずつ、出し入れする練習をする。
力を0から100にするのではなく、0、10、20、30%…というように、少しずつ加えていく。
100まで入ったら、90、80、70%…というように、少しずつ引いていく。
電車の中でも、どこでも出来る。
コントロール力をつける為の手軽な練習法であるから、色々なパーツで試してみて欲しい。
冒頭の言葉は、今は亡き、師匠の言葉である。
あなたにも贈りたい。
この煮え切らないグレーが、バレエの奥深いところなのである。