上質なものを作るには、
上質なレシピが必要だ。
序論:質と健康を叶える
「柔らかいプリエをしなさい」
特に、ジャンプの着地で耳にする言葉だ。
馴染みのある指導言語ではあるが、実際には、目的と異なる動きをしてしまうことが多い。
「柔らかいプリエ」は、動きの質を高めるだけでなく、あなたの健康を守る上でも、ぜひ、把握しておいて欲しい。
本稿では、レッスンで伝わる「柔らかいプリエ」解釈と実践について述べる。
本論:レッスンで伝わる「柔らかいプリエ」解釈と実践
本論1:「柔らかいプリエ」の目的
大人に「柔らかいプリエ」を求める理由第1位は、「怪我や事故を未然に防ぎたいから」である。
特に、ジャンプの着地では、とても大きな衝撃と重さが下半身にかかる。
この衝撃と重さを分散させ、リスクを減らしたいのである。
ちなみに、衝撃が全て悪いということではなく、一定程度は、骨を強くするために必要不可欠である。
参考までに述べておくと、筋肉ムキムキたくましい体、栄養管理バッチリという世界屈指の競輪選手が、骨粗鬆症だったという事例がある。
”筋肉ムキムキたくましい体=いかにも強そう=骨が強い” ではないいい例だ。
骨は、栄養だけでは作られない。
(競輪は自転車による競技のため、地面からの衝撃を受けない。足部が浮いていることに着眼。)
バレエのジャンプは、正しく動くことが出来れば、健康に良いものだ。
形式を守り、正しい動かし方で跳んだならば、競技性のジャンプよりずっとずっと、怪我や事故を防ぎやすい。
バレエは、衝撃や重さを分散できるシステムになっているのである。
衝撃が必要と言っても「必要分」であって、必要以上なら、怪我や事故を招く。
これは、決して忘れてはならない。
柔らかいプリエの利点はこれだけではない。
動きを滑らかにし、次の動作への移行をスムーズにしてくれる。
さらに、予備動作を減らすことが可能になるため、重さを感じさせない動きへと導いてくれる。
本論2:プリンは1つでいい。
ここでは、理屈を整理しよう。
意図を理解し、シミュレーションするためにも、大人にとってこの工程は必要不可欠だ。
読み終える頃には、あなたの「プリエ」へのイメージが変わるかも知れない。
よくやりがちな間違い例は、普段のプリエ(あなたがいつもしているプリエ)から、さらに深く踏み込むことである。
柔らかいプリエ=「量・深さ」を指しているのではない。
少なくとも、普段のプリエまでの深さの「質」を「柔らかく」する、という意味である。
ここに、プリンが1つあるとしよう。
ゼラチンが多すぎたのか、固いプリンだ。
「柔らかいプリエ」と指示が出たときに、”いつものプリエをしてから、さらに深く踏み込む” という行動は、固いプリンを2つ用意するようなものである。
1つだろうと、2つだろうと、固いものは固い。
ここで求められているのは、柔らかいプリンを1つ用意することだ。
<ここまでのまとめ>
▶︎いつものプリエまでの「質」を変える。
▶︎柔らかくとは、いつものプリエをして、そこからさらに深くすることではない。
本論3:ポイントは「時間の流れ」
ここからは、実際に何をしたら良いのかを提示しよう。
柔らかいプリエをするには「時間=速度」の調整が必要である。
空中に体が在る(跳んでいる)状態〜いつものプリエまで、出来るだけ「ゆっくり」にする。
このプリエの時間をゆっくりにすることで、着地における重さと衝撃の分散をする。
特に、”足先が床に着いた瞬間〜いつものプリエの深さ” は、注意深くやろう。
くれぐれも、いつものプリエよりも深くならないように気を払うべきだ。
ジャンプだと速すぎて分からない場合は、ルルヴェで擬似体験をすることも可能なのでやってみるといい。
動作自体は別物ではあるが、感覚を体験できるだろう。
第1ポジションで、スッとルルヴェに立つ。
ここから、いつものプリエまでを3分割にしてみよう。
必ず、3分割したポイントを意識して通る。
慣れてきたら、4分割、5分割にしてみても良い。
ルルヴェに立つときには「スッ」と立ち、降りる時はスピードをゆっくりにする。
この時間差、速度の差が、ジャンプにおいての「柔らかいプリエ」に大いに役立つのである。
<ここまでのまとめ>
▶︎いつものプリエを、何分割かに分けてゆっくりとプリエする。
結論:まとめと体の前提条件
柔らかいプリエとは、
①自らの筋で膝を曲げる動作である。…重さによって膝を曲げることではない。
②量ではなく「質」。
③深さはこれまで通り、速度の変化を変える。
特に注意したいのは、①である。
筋の活動によって膝を曲げていれば、速度調整が可能だが、重さによって膝を曲げてしまうと、それはない。
「柔らかいプリエをしなさい!」と指摘される時点で、筋の活動によって膝を曲げているかどうかは、かなり怪しい。
その上で。
これらは、「すでに体が高いところに存在している」ことが前提となっている。
従って、引き上げ(吊る)に問題があると、柔らかいプリエをする際の阻害因子となる為、予め用意しておく必要がある。(注1)
もう1つ。
ゆっくりとした着地をするには、足指の強さや「ポイント」の正確性が求められる。(注2)
がんばってみてもうまくいかないのであれば、少なくともどちらかが弱い、あるいは、出来ていない可能性が高い。
無理に回数を重ねるのではなく、癖がつく前に、前提事項についても改めて確認した方が良いだろう。
様々なポジションで
様々な形で
両足で、片足で。
さあ、やってみよう!
注1:カラダを保つ、引き上げる。大人はここをクリアできることが絶対。
https://juncotomono.info/program/20210202-abdominal/
注2:「足首を伸ばす」ではなく、欲しいのは「ポイント」という技術。
https://juncotomono.info/program/20210126-wbp-foot-pointes/