「天敵」を知ること。
自分の強みに変わるとき。
序論:当たり前ほど、精査を
バットマン・タンジュやバットマン・タンジュ・ジュッテ等で、よく耳にする指導言語がある。
- 床を擦って出して!
- 床を舐めるように出して!
当たり前のように稽古場に流れる言葉ほど、本来の意味を捉えているのか、定期的に精査する必要がある。
本稿では、「タンジュで床を擦る」状況別、それぞれの対策と準ずる解説を述べる。
本論:「タンジュで床を擦る」状況別の対策と解説
本論1:大人にとっての「天敵」
「床を擦って!」(「舐めるように」も含める)という指導言語は、次のような間違った行為を誘導しやすい。
- 床を押し付ける
- 床を掘ってしまう
そうした行為をしているうちに、次のようなことを招いてしまう。
- 足部や脚の機能低下を招く、助長する
- 体全体のアライメントを崩しやすい
- 動きの方程式から外れる
「体重をかけることで動きを生み出し、筋の活動をしていない」これは、大人にとって、最も改善すべきことである。
放っておくと、バレエだけでなく、日常生活にも影響が出ること必至だからだ。
じわりじわりと、あなたの首を絞めていく。
「床を擦る・舐める」に対しての間違った認識や行為は、想像以上の悪影響を及ぼしていることを、あなたにも、指導者にも、もっともっと知って欲しいところである。
本論2:状況の整理
まずは、「床を擦って!」と指示が出やすい状況を整理しよう。
①足先が離れる瞬間がある。
②カカトが床から離れるタイミングが早すぎる。
③最終形で、足がしっかり伸ばされている「印象」がない。
④教師の口グセ
1つずつ、解説しよう。
①について
初心者にありがちなタンジュのパターンは、比較的、分かりやすい。
「足先が床から離れる瞬間」が見え、そして、再び床に置く。
ジュッテでは、足先は床から離れてはいるが、同じ方法で行ってしまう。
バレエにある程度慣れていると「タンジュで足先が床から離れるのは良くない」ということを知っているために、わかりやすく初心者のように動きは見られない。
とはいえ、動きの方程式自体は初心者と変わりない。
足先が床に「触れて」はいるものの、シャッセして出しているわけでもなく、「外面」だけが変わっているだけだ。
この時、教師は「なんとなく、足先が床から浮いている」ような印象を受けてしまう。
そのために「床を擦って!」と指示するわけだが、本人としては、足先は床に触れているし、事実、離れているわけではない。
ここに、教師と生徒の間での認識の差が現れている。
②について
ポジションからタンジュやジュッテをする瞬間に、カカトが早い段階で床から離れてしまう。
こうすると、床からの抵抗を受けられず、足部が育たない。
その上で、「足」ではなく「足首を伸ばす」という間違いを引き起こす。
バレエで初期に学ぶべき「脚を寄せる」を身につけることができず、引き締まった脚にならない。
③について
ここでのポイントは「印象」である。
本人的に、しっかり伸ばしているか否かは、議論の対象にはならない。
動きの「最終形」がはっきり見えないと、自分の意思で動いているようには映らない。
④について
これが、最も避けるべきで、最も「無駄」、かつ「混乱」を引き起こす。
- だって、バレエだからそうでしょ?
- 私は、そのように習いました、習ってきたことが正しいです
- 指導法ではそうだったから
特に、身震いするほど呆れるのは、無意識に発言している場合である。
無意識に人に要求するとは、なんと図々しいと思うが、実際には、それを見抜けない方にも問題はある。
ここに関しては、これ以上述べない。
どんなに正論を述べたところで、受け入れ準備が出来ていなければ無駄に終わるからだ。
本論3:それぞれの対策
それぞれの対策を述べていこう。
④に関しては、触れない。
①について
足先といっても「どこで床を圧すのか」がわかっていないと、最終到達点が曖昧ゆえに、床から離れやすい。
足先が明らかに床から離れるようであれば、ここをはっきりさせておこう。
「最終到達点」である。
●最終到達点では、どこで床を圧すのかが分からない!という方はこちら↓
床には触れているけれど、なんとなく浮いてしまって見える可能性がある場合は、速度コントロール不足が大きな課題となる。
ポジションからタンジュ最終形に行き着くまでを、2等分にする。
後半部分で「減速」していないだろうか。
ここではむしろ「やや加速」する必要がある。
すると、動きを一定に、イーブンに取ることが出来る。
これが、基本として習うべき形である。
②について
早くカカトが上がってしまう場合は、
- 前後は、第4ポジション
- 横は、第2ポジション
ここを通ることを意識してやってみよう。
このとき、カカトは出来るだけ床方向に下げておく。
その上で、骨盤のポジションも保持しなければならない。
骨盤の位置を保っている、そのうえで、カカトを出来るだけ床から離さない。
カカトは、つま先がそれぞれの方向へと滑り出すのに連れて、「仕方なく」床から離れるだけだ。
③について
ここで最も大切なのは、自らの筋を活動させることが必要だということだ。
重さをかけることで脚を出すことは、早急に取り組むべき課題だが、バレエレッスンでは解決しないことも知っておくべきだろう。
放っておくならば、慢性的な痛みを抱え、年齢とともに急速に筋力低下を招き、健康さえ害するだろう。
バレエ的なことで言うならば、まず、足底の筋を働かせることが求められる。
とはいえ、問題はここではない。
全身の筋力不足と「神経発火」が足りないことである。
指先がブランブラン、ボーッとして見えやすい場合は、要注意である。
根本改善が求められる。
結論:これだけは「知っておくべき」
「床を擦る」とは「自分の筋で動く」ということであって、体重等の重さをかけることではない。
頭で分かっていたとしても、体で理解するのは、そうそう簡単なことでない。
「真っ直ぐに立った経験がないと、曲がっていることに気づかない」ように
「自分の筋で動いた経験がないと、重さをかけてしまっていることに気づかない」のだ。
まずは、悪影響となることを排除しよう。
「向上」は、その瞬間からはじまっている。
つまり「向上」に取り組んでも、悪影響となるものを排除していなければ、向上はない。
バレエでは、この逆はないのだ。
一緒にやってみよう!