おニャーさんが思ったこと、感じたことをお伝えするエッセイ。この記事では、耳にすることがある “とある言葉” について、ひとつの考えとしてお伝えします。
目指すところは一緒
今はもう、JBPでこうした話は聞かなくなりました。以前はあったんです。指導者の前で堂々と「目指していることはどの先生も同じ」とおっしゃってくるケースが。
バレエとはどういうものか、正しいとはどういうものか。定期的にいらしゃっている方に関しては、かなり理解が深まったと思います。
特に「何に対しての正しいなのか」については、一般的なバレエ教室やオープンクラスに通っている方とは、全く違います。8割のバレエ教師よりも理解できているのではないかと思うほどです。
なんでも先生の方がバレエに対しての理解が深い訳ではないんです。きちんと話を聞いて、受け入れて、学んでいれば、先生よりダンサーより振付家より、バレエを客観的に見ることもできます。
リファール、ヴァロワ、バランシン、ワガノワ、チェケッティ…
今や世界の中心となっているカンパニーを長期に渡って率いたり、指導者として活躍した彼らから「よくわかりましたね」」とお褒めの言葉をいただけるのではないかと思うほどです。
共通していることはある
確かに「バレエ」というカテゴリの中で共通した【おやくそく】というものはあります。
膝を伸ばすだとか
脚を外向きにするだとか
まっすぐに立つだとか
つま先を伸ばすだとか
【やっちゃいけない共通したこと】で考えた方がわかりやすいかもしれません。
膝が曲がってはいけません
内足にしてはいけません
背中を丸めてはいけません
足首を緩めてはいけません
「いけません」という言葉、大人は嫌う傾向があるようです。後ろ向きな印象があるのでしょう。気持ちはわからなくもありません。
ですが、「いけません」というのは【法律】のようなものです。バレエの法律。
”自由はある。あなたの好きにしてもいいこともある。ただし、法律は守ってね” ということ。
法律を守りさえすれば、自由はあるのです。
法律と目指すこと
ここで勘違いしてはならないのは、【やっちゃいけないこと=法律】が目指すことではないということです。
膝が曲がってはいけません
内足にしてはいけません
背中を丸めてはいけません
足首を緩めてはいけません
これが目指すものではありません。
では、これ。
膝を伸ばすだとか
脚を外向きにするだとか
まっすぐに立つだとか
つま先を伸ばすだとか
これを目指すものと勘違いしがちです。膝が伸びない人にとってはそうかもしれませんが、バレエとして目指すことではありません。
バレエとして目指すことを実現するために必要な【材料】に過ぎないのです。
”スパイシーなカレー” を作るための、野菜だとか、ハーブだとか、スパイスだとか。そういうものです。
この場合、目指すものは”スパイシーなカレー” です。
正しいではなく “好み”
スパイシーなカレー
まろやかなカレー
辛いカレー
甘めのカレー
どれもカレーです。”カレーとして間違いです!” なんてものはありません。あとは、好みの問題です。どれが好きなのか。
バレエも同じなんです。
なぜ、バレエにはスタイルがあるのでしょう。
なぜ、バレエにはメソッドがあるのでしょう。
それは、それぞれの土地での「美しい」という概念が、少しずつ違うからです。もちろん、共通した項目もあります(それが法律になっている)が、好みのニュアンスだとか、雰囲気というものは違ってきます。
ジョージ・バランシンはロシア(ソビエト連邦誕生前のロシアです。ちなみに、バランシンが学んだバレエはワガノワメソッドが確立する前に、ロシアで踊られていたバレエです)からアメリカに渡り、アメリカの観客の好みに合わせたバレエを創りました。
ロシアバレエにしても、フランスバレエにしても、イギリスバレエにしてもそうです。観客の好みというものを反映しています。
そうしたものを踊れるように訓練するために、メソッドがつくられます。
もうおわかりですよね。最終的に目指すものは違うんです。だからこそ、同じ白鳥でも、同じ眠りでも、私たちはさまざまな演出、さまざまな踊り方のものを見ることができて、楽しむことができるのです。
決して、コピーではないんです。その土地それぞれのバレエがあります。
先生だって同じ
バレエを勉強してきた先生であれば、バレエの法律は知っているはずです。そして、その法律をあなたに伝えていると思います。
法律だからこそ、膝を伸ばすだとか、脚を外向きにするだとか、どの先生でも耳にするようなことがたくさんあるのです。
一方で、目指すものというのはバレエスタイルそれぞれで違うように、先生それぞれで違うはずです。目指すものがあれば。なければ、”ロシアバレエです” とか “イギリスのバレエです” とか、そうした言い方になるのかもしれません。
目指すものに正しいも正しくないもないんです。法律ではないですから。そこは、あくまで好みなんです。
選択権はあなたにあります
JBPは特定のメソッドやスタイルで指導はしません。けれども、同じ動きでも「●●メソッドはこう、●●スタイルではこう」という解説をするときはあります。
テーマにもよりますが、同じ動きでもさまざまな方法があることも提示します。どちらが自分に合うかなんて、やってみないとわかりません。
結果として、「私は●●スタイルがいいわ」というものがあるのであれば、それをやってみればいいと思います。
選択権はあくまで本人にあるというのが、私たちのスタンスです。法律さえ守っていれば、あとは好みなのですから。その【自由】は奪いたくありません。
法律と好みは整理しておいた方がいいです。
正しいという言葉に託(かこ)つけて、自分の考えや誤った方法や考えを正当化するのは、バレエが目指すものとは真逆の言動です。それに、好みの部分を統一化するのは、個人的にはとてもディストピアな印象を受けます。
目指すものは同じ。
そうであれば、なんと乏しい感性なのでしょう。法律を守った上で、それぞれの感性を尊重する。そんな考えが、大人のバレエにも浸透したら、もっともっと広い世界を知れることと思います。
バレエという世界の中で、旅をするのです。それぞれの価値観と感性があるのですから。知らない価値観や感性に出会えることは、楽しいものです。