何も知らないからこそ
”正しい”と思い込む事が出来る。
しかし、真の”正しい”ではない。
序論:何が”正しい”と言えるのか
かねてより、申し上げている事ではあるが、現代におけるクラシックバレエの”正しい”とは、バレエという世界においてのコモンセンスが大半を占める。
ここに関して、世の中のバレエ教育に携わる方々に物申したい事はあるが、個人的な意見を述べるのはやめよう。
そして、バレエにおける”正しい”とは、メソッドやスタイルによって異なる場合がたくさんある。
同一のメソッドの中でも、教師によって判断が異なる場合もある。
こんな話を聞くと、「全く、どれをやったらいいの?どれが本当に正しいの?」と嘆きたくなるかも知れない。
そう、私が物申したいのは、まさしく [そこ] である。
そうした問題がある時は、JBPが発信している情報を探してみるといい。
実際のワークショップでもそうだが、どんな方法があるのか提示し、メリット・デメリットをお伝えするようにしている。
決して、○○がこう言っていたから正しいんです、なんて言い方はしない。
きちんと、身体部の先生方とも一緒に、どのような体のシステムで、どのような動かし方をしているのか、精査した上で提示をする。
第2ポジションにも、こうした問題が付き纏う。
本稿では、第2ポジションについて述べる事とする。
本論:第2ポジションのプリエ|狭め・広めのメリット・デメリット
本論1:第2ポジションとプリエの”絶対”
第2ポジションは、第1ポジションから、横に足を広げた形を取る。
足と足の間(以降、歩幅と記す)が、どのくらいなのか。
メソッドやスタイルによっては、
・○足分、あける
・○センチ、あける
・タンジュの幅を利用した、あける
など、はっきりと決まっている場合がある。
[バレエなら、こう] ではなく、このメソッドなら、このスタイルなら、という話なので、当然、メソッドやスタイルが変われば、正しい歩幅は変わる。
この歩幅に関しては、ここでは厳密な数字は、敢えて言わず、狭めの第2ポジション、広めの第2ポジションと明記する。
いずれにせよ、狭かろうと、広かろうと、指定の歩幅があるのならば、それをやってみる事自体が大事なのだ。
もう1つ、大事な事を先に述べておく。
プリエでの足首は、致し方なく曲がるのであって、自ら率先して曲げたり、折り畳もうとしてはならない。
こうすると、必要な股関節の可動が制限され、アンディオールする事が出来なくなる。
さらに悪い事に、体重という重さが膝にかかり、ケガを誘発してしまう。
脛を甲に近づけるように、足首を折り畳んではならないのだ。
このような ”腿が滑っているプリエ” は、絶対に、避けなければならない!
本論2:それぞれのメリット
それぞれのメリットを整理しよう。
▶︎狭めの第2ポジション
狭めの第2ポジションを取るメリットは、腰の高さと背中の保持に集約される。
そもそも、第2ポジションというのは、第1ポジションよりも歩幅が広がる為、それだけで腰が下がり易い性質を持つ。
狭めの第2ポジションでは、上半身を強く保ち、体の高さを保持する事が優先される。
特に、腰と背中を強く保つ事を優先したいのであれば、狭めの第2ポジションは有効である。
▶︎広めの第2ポジション
広めの第2ポジションは、脚を開き易い、回し易いという性質を持つ。
これは、本論1で述べた、足首に関する話と直結している。
歩幅が広い方が、足首は曲がりにくい。
半ば、強制的に足首を曲げるという行為を抑制しているというのが、広めを取る最大のメリットである。
さらに、歩幅が広い方が、脚の筋が積極的に活動し易い為、速やかに全身を温めてくれる性質も持っている。(注1)
本論3:それぞれのデメリット
それぞれを選択する際に、気をつけなければならない事を整理する。
▶︎狭めの第2ポジション
背中をはじめとする、引き上げに関する項目はし易いが、アンディオールを促しにくい、というデメリットはある。
歩幅が狭い分、足首を曲げがちだからである。
もう1つ、支持基底面が狭く不安定な為、体を前後にずらす事で安定させようとしてしまう事がある。
大人は、特に気をつけねばならない。(注2)
つまり、こういう事だ。
・出っ尻になり易い
・胸を突き出し易い
・体が前に倒れ易い
お心当たりはないだろうか。
▶︎広めの第2ポジション
狭めの第2ポジションとは対照的に、アンディオールはし易くとも、上半身を保つ事が苦手な事は、しっかりと把握しておくべきであろう。
腹部や腰背部の緊張は抜け易い。
緊張が抜けると、緩んでしまう。
腹部や腰背部には、必要な仕事を与え、一定の緊張を保たねばならない。
特に、広めの第2ポジションでのグランプリエは、要注意である。
・腰、背中が丸まっていないか
・腹部にレオタードのシワが寄っていないか
・胸が落ちていないか
注意すべきであろう。
本論4:活用する際に知っておくと便利なこと
それぞれに、メリット・デメリットがある事は、お分かり頂けた事と思う。
大切なのは、
・”どちらが正しいか”ではなく、バレエとしては ”どちらも正しい” という事を知る事。
・メリット・デメリットを知った上で選択する事。
この2点である。
引き上げを優先したいのであれば “狭め “、開く事を優先したいのであれば “広め” という選択もあるだろうし、気温が低い日に”広め”を選択しても良い。
その逆もあるだろう。
あるいは、ウォームアップで出てくる第2ポジションと、プリエ以降の第2ポジションを分けて使うのも、1つの選択だ。
1つ提言をするのであれば、コロナ禍において、この秋冬は換気が必須となり、スタジオ内の気温が思うように上がらないケースも考えられる。
そうした場合は、ケガ予防のためにも、広めの第2ポジションも有効に活用してはどうか、という事である。
メリット・デメリットを知っていれば、こうした事にも対応する事が可能である。
結論:プリエのアンシェヌマンでの注意点
バーレッスン プリエのアンシェヌマンでは、それぞれを取り入れるに当たり、注意点がある為、まとめておく。
▶︎狭めの第2ポジション
・プリエのアンシェヌマンは、第1ポジションからスタートする。
→第2ポジションから始めると、効果は極めて薄くなるので注意。
・第1ポジションから第2ポジションへの移行は、バーの外側の足のみを動かす。
ポジションチェンジについては、こちらに記載してあるので、ご覧いただきたい。
▶︎広めの第2ポジション
・プリエのアンシェヌマンでは、第2ポジションからのスタートもある。
→先に、開き易い方を行いアンディオールを促進するという考え方。
・第1ポジションから第2ポジションへの移行は、必要であれば、バー外側の足だけでなく、内側の足も動かして調整する。
→ただし、2歩で行う事。それ以上の踏み替えや、お尻を振るなどの余計な動作を入れない事。
様々な情報が飛び交っているが、情報に触れた途端、思考停止になっていないだろうか。
それは、なぜ? という疑問を持とう。
バレエとしての”正しい”を満たしているのであれば、あとは、活用次第である。
頭を柔らかく、状況や目的によって使い分けよう。
注1:[脚の筋が積極的に活動し易い=深いプリエ] という意味ではない。
注2:支持基底面については、「大人のバレエ なぜ上達しない」に記載。
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